筆者おススメの本⑩ー暮しの茶(小川八重子著)ー

暮しの茶 レビュー

おススメの本ばかりを最近書いてますが、実はあまり人気ありません。いいんだ、別に。。

いや、第一このご時世でブログって…という声もあるかと思いますし、筆者自身もそう思うところもあります。(YouTubeもよく見てる)
ですが、年齢を重ねれば重ねるほど、ネットに溢れかえる情報に疲弊するようになりまして、本の世界に逃げがち。

そんなこと言いつつも、自身で流しているのはネットの溢れかえる情報のひとつな訳で、おまけにそこで本のレビューを書いちゃっているんですよね。汗

しかも紹介する本の多くが絶版本。←

そんなどうでもいい前置きはひとまず置いておいて、本の話をしましょう。
※いつも一人称に「筆者」を使っていますが、小川八重子氏と間違えるため「私」と書きます。

「暮しの茶」について



■タイトル:暮しの茶
■著者:小川八重子氏
■発行所:株式会社平凡社
■出版日:1975年10月8日初版
どうでもいいことですが、消費税も書かれていない550円のこの本、なんだか歴史を感じます。

著者、小川八重子氏の紹介について本の背表紙からそのまま引用します。

1927年京都西陣生まれ。1949年京都師範学校本科卒業。妙心寺雲祥院の売茶本流渡辺琢山禅師について煎茶を学ぶ。東京目黒で小川八重子煎茶教室を主宰。かたわら「世界の茶をたのしむ会」で喫茶研究の成果を広める。著書「煎茶入門」

筆者の小川八重子氏は1995年にお亡くなりになっているそうです。

色々調べていると、静岡県島田市に「茶夢の館」という生前の収集品などを集めた記念館があったようなのですが現在はやっているのかどうなのか…。

IM(アイエム)という日本最大級のミュージアム情報サイトには出てくるのですが、”*第2日曜日~第3日曜日の8日間のみ開館”という謎の営業時間が書かれているのと画像がないためどうなっているのか不明です。

著書がいくつかあり、彼女が亡くなったあとにご主人が書いた書もあるので、彼女の思いは今も受け継がれているのかも知れません。


こちらはご主人の本。
こちらも読んでみたいと思っています。

内容はタイトル通り「暮しの茶」を紹介するのが主体ですが、製造方法や茶の保管方法、歴史、淹れ方なども全体的にコンパクトにまとめられています。

茶の基本的な内容は今販売されている本や情報と同じ内容かと思われますが、時代背景などを考え併せて読むと面白い発見があります。

私のおススメポイント

①”常茶”への想い

小川八重子氏は常日頃から”常茶”のあり方を模索していた方だそうです。

煎茶道の普及に尽力していた中で玉露や煎茶をたくさん飲むと具合が悪くなることがあり、お茶は薬のはずなのにおかしいと茶について根本から見直しました。

昔ながら家で作って飲むような日常的な茶”常茶”こそが正しい茶なのだと。
この本の冒頭にもこのように書かれています。

「使う人の身になって」というのが商品を作る場合の基本の心かけです。農林省はじめ茶の生産業者が、上級茶、上級茶と騒いでいますが、一体誰のための上級茶をといっているのでしょう。考え直してみる必要はありはしないか、と私は思うのです。
お茶は見るものではない、飲むものです。形は少々悪くても、色が少々悪くても、お茶を飲んだら胃の調子がすっきりとした、というようなお茶をほしいとは思いませんか。

この本が出版されたのは1975年。
私の記憶が確かなら茶の栽培面積が最大だった頃です。

高度経済成長期で国内需要がどんどん伸び、作れば売れる、という時代だったと聞きます。

収量を増やすためにどんどん肥料を与え、農薬を撒く。

そういうお茶に違和感を感じていたのだろうと思われます。
そこから昔ながらの”常茶”への回帰を求めるようになったのでしょう。

②釜炒り茶の製法

釜炒り茶
いまでこそ、釜炒り茶は全国あちこちで作られるようになっていますが、当時(1975年時点)は「まぼろし」と言われていたようです。

本の中で「”常茶”のふるさと 九州嬉野に釜炒り茶を求めて」という章があり、s写真入りで釜炒り茶の製法について書かれています。

製法は以下の通り。

1、昔ながらの在来茶の葉を手摘みする
釜炒り茶の茶葉は十分に成熟した葉が良い。玉露や上級煎茶のようなやわらかい葉を使うと何度も高温で炒ってゆくと葉が粉々になってしまう。

2、380℃~400℃に熱した釜に生葉を入れて10分ほど炒り上げる

3、筵に広げ15分ほど揉む

4、温度を下げた釜に戻し、再び炒る→これを5,6回繰り返す

5、翌日低温で炒っては冷まし…を4時間ほど行って完成

ここでとても面白いと思ったのが、4の工程のあと、おおよそ乾燥した葉を網代張りのざるなどに広げて一晩置くと書かれているところです。

酵素活性を熱で止めているのでこれ以上茶の中で化学変化が起こることは無いとは思うのですが、香味が良くなるからやっているのか、はたまた作業効率の面から行っているのか気になるところ。
▼参照:煎茶伝統の手揉み茶が危機?手揉み茶とは?皇室献上茶とは?

もうひとつ、手摘みする葉は十分成熟したものを、と書かれているところです。

例えば釜炒り茶のふるさとである中国の釜炒り茶の動画などを見ると、とてもとてもみる芽(出たての柔らかい芽)を摘んでいます。

”常茶”である嬉野の釜炒り茶に限っての事なのか、以前の釜炒り茶は全体的にみる芽ではなく成熟した葉を摘んだのか気になります。。
▼参照:茶を作る2020‐出始めの新芽で作る釜炒り茶‐

40数年前は今とどのように違うのかについて楽しむことができますので、是非読んでみてください。

結び

私は彼女にお会いしたことはありません。
茶に私より長く関わっていた相方も知り合いから彼女の話を聞いたことがあるくらいです。

しかし、相方が長くお世話になっている女性はまるでこの小川八重子さんと同じように生きていらっしゃいます。

茶道(抹茶)の道を究めてご活躍なさっていたのに、お茶を作る方へ転向。
今も地方で茶を作りながら、その地方に残る番茶の作り方などを調べて回っています。
その方の顔がなんとも頭に思い浮かぶ本でした。個人的ですが。

丁度この本が出版された頃、茶も経済成長の波にのまれて、昔ながらの茶は置いてきぼりになってしまったのだろうと思います。

ここ数年、地方の番茶なども注目されるようになってきています。

先日も徳島県の阿波晩茶の製造技術が重要無形民俗文化財に指定されました。

個人的な意見ですが、最近は青みの強い煎茶が多くなったように思います。

二番茶、三番茶の価格が下がり、新茶を早く早くと求める声が増え、フレッシュさに重点を置いた茶が増えているのでしょうか。

また、ついにペットボトルでも香り緑茶が登場しましたし、和紅茶の世界などでも「香り」に重点を置いた作りのものが増加しているように感じます。
▼参考:緑茶のニーズは「香り」へ 新ブランド『アサヒ 颯そう』 4月4日発売 微発酵茶葉を一部使用した華やかな香りの緑茶

自身も実は香り重視の青みの強めなお茶を作っているのですが、実際そういうお茶を多く飲むと胃にきます。自分で作っておいてなんですが…。ちなみに渋みも苦手…。

実際に飲むのであれば、小川八重子氏が仰っている通り、飲みやすく、体になじむ”常茶”が一番良いのだろうと最近思うようになってきました。年のせい…???

私的にはほうじ茶や火香強めの煎茶などです。

良い、悪いではありません。
好みの問題ですので。

流行りものを追い求めるだけではなく、元来あるものや先人たちの知恵を思い返す良いきっかけを与えてくれた本です。

よろしければ是非どうぞ。

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