「西尾の抹茶」が地理的表示(GI)保護の登録取り下げ?!GIの問題点とは?

地理的表示(GI)保護制度について、以前もご紹介しており、ポジティブな内容で書いています。
▼参考:インド、アッサムティの地理的表示(GI)保護制度

インド紅茶の「ダージリン」がGIとして世界的に有名で、国が茶を知的財産として保護するという筆者の中では非常に良いイメージがあるからです。

そのイメージを覆すニュースが流れました。
これは日本国内の話。

平成29年3月に日本の地理的(GI)表示保護制度に登録した「西尾の抹茶」がGI登録の取り下げを申請するという内容です。
▼参考記事:西尾の抹茶GI取り下げへ 地元組合国に申請、全国初

今回はこちらについて少し考えていきたいと思います。



「西尾の抹茶」GI登録取り下げの概要について

愛知県西尾市の西尾茶共同組合が地域の農林水産物や食品ブランドを守る地理的表示(GI)保護登録から「西尾の抹茶」を外すように農林水産省に2月中に申請する方針を決めたとのこと。

同組合によると「流通面のメリットがない」という理由。
また、取り下げというのは全国で初めてだそうです。


こちらは農林水産省のHPに掲載されているGI一覧から抜粋しています。(2/3現在)

「西尾の抹茶」自体が2019年という割と最近登録されたもので、他にも米沢牛や特産松阪牛なども登録がされています。

地理的表示(GI)保護制度とは

地域には、伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地等の特性が、品質等の特性に結びついている産品が多く存在しています。これらの産品の名称(地理的表示)を知的財産として登録し、保護する制度が「地理的表示保護制度」です。
 農林水産省は、地理的表示保護制度の導入を通じて、それらの生産業者の利益の保護を図ると同時に、農林水産業や関連産業の発展、需要者の利益を図るよう取組を進めてまいります。
▼参照:農林水産省HPより引用

こちらを読む限り、<GIを取得した生産物を知的財産として保護し、国全体としてバックアップする>という印象があります。

しかしながら、今回西尾茶共同組合では「流通のメリットがない」ためにGI登録の取り下げをしたいということなのです。

流通のメリットがないとは…?

そういえば、八丁味噌問題もGIが絡んでますね。


HiCさんによる写真ACからの写真

こちらは少し前ですが、「八丁味噌」がGI登録の件で話題になりました。

概要はこうです。

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2017年12月に「八丁味噌」が地理的表示(GI)保護に登録された。
登録者は愛知県内の味噌メーカーで組織する「愛知県味噌溜醤油工業協同組合」

本来「八丁味噌」というものは、徳川家康が生まれた岡崎城から西へ八丁(約870m)の八帖町に由来している。

岡崎市内の八丁味噌老舗、≪株式会社まるや八丁味噌≫と≪カクキュー≫は戦後しばらく宮内庁御用達の味噌を作っており、300年以上の歴史がある。

どちらの老舗でも100年以上同じ木桶を使い、岡崎城下で作られた塩を使い、矢作川河岸にある球状の天然石3トンを円錐状に積み上げて、2夏2冬の間天然醸造するとういう伝統的な手法で味噌を作り続けてきた。

そのため地理的表示(GI)保護を取得しようと、2015年6月に申請。
(地理的表示(GI)保護制度の開始は同2015年6月。交付されてすぐに申請している)

しかしながら、岡崎市が「八丁味噌」の発祥の地であるにも関わらず農林水産省は産地を<愛知県全体>に拡大するように要求。

そのため、「それでは正しい八丁味噌を守り伝えることは難しい」と感じた老舗二社は申請を取り下げ。

しかし、国は愛知県の「愛知県味噌溜醤油工業協同組合」による「八丁味噌」のGI申請を2017年6月に受け付けた。
※老舗二社が申請をしてからかなりの時間がかかっているにも関わらず、「愛知県味噌溜醤油工業協同組合」はすぐに認定されている。

他の組合の「八丁味噌」は、老舗二社が長年守り続けてきた伝統製法ではなくともよい(木桶でなくとも、積み上げる石も他のもので代用しても良く、老舗では使わない酒精を使用しているものも、加温して2夏2冬越さないでも「八丁味噌」と名乗ってよい等)としている。

現在も老舗二社は不服申し立てを行っている。
▼詳細参照:八丁味噌協同組合HP

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国としては欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)によって海外へ輸出するため、早く「八丁味噌」をGIとして認定する必要があったとのこと。

日本古来の伝統製法を大幅に緩め、本来正しく伝統を守って作り続けてきた老舗二社は「八丁味噌」を名乗ることが出来ず、伝統製法を緩和した製法で作られた「八丁味噌」は海外で利益を出すことが出来るようになるというなんとも矛盾した認定。。
ちなみに、農林水産省で定めている「八丁味噌」の定義はこちら




西尾の抹茶をGIに登録していても意味がない?

申請取り下げのニュースを各誌読んでみたものの詳細は不明で「流通のメリットがない」のみです。

八丁味噌の件は、本来GI認定されるべき伝統製法が認められないというところに問題があります。
本来は「伝統的に作られた」「その土地独自」のものがGI認定されるべきなのですから。

しかし、伝統製法のものというのは非常に手間暇がかかり、コストも高く製造日数も長いものがほとんど。
例えば石臼で挽く場合は10時間程度かかりますが、粉砕機を使用すればかなり短縮できるそうです。

つまり、
「現在の抹茶ブームで伝統的製法で作られていない抹茶が「抹茶」として流通しているため、本来の伝統的製法で作ったものでは価格が高いという理由で購入してもらえない。

そのため、伝統製法の「抹茶(西尾の碾茶)」と、量産用の「抹茶(西尾の抹茶)」の名称を分けていくことにより生産者の利益も確保していきたい」
という考えから、一旦「西尾の抹茶」のGI登録を取り下げて、<西尾の抹茶>⇒<西尾の碾茶>に名称変更し、<西尾の抹茶>の製造法は伝統的製法より緩和したものを登録する狙いがあると考えられます。
▼参照記事:本物の抹茶(仮)と量が多くて価格の安い抹茶。違いはなに?

高価格帯の「西尾の碾茶」を使用した伝統的抹茶多少伝統製法から外れた低価格帯の「西尾の抹茶」が共存しながら、伝統文化を守っていくということになるのでしょうか。

なお、GI登録に伴う伝統的製法の「西尾の抹茶」の定義は以下となります。

(1)原料茶葉
 西尾の抹茶に使用する茶葉は、愛知県西尾市および安城市において伝統的な「棚式覆下栽培」を守り、4月頃の新芽が伸び始める時期から25日以上の期間、茶棚の上に遮光資材を広げて被覆した条件下で栽培されたものとする。(茶樹を直接被覆資材で覆う簡便な「直がけ栽培」は行わないこととする。)また、二番茶については12日以上の期間、茶棚の上に遮光資材を広げて被覆を行い、一番茶同様、茶棚の上に遮光資材を広げて被覆した条件下で栽培されたものを西尾の抹茶の原料として使用する。ただし、立地条件や気象条件により、定められた被覆期間より早く摘採時期を迎えた場合は、一番茶および二番茶について、止芽(とめ)が開き、2cmを超えたことを目安として確認したうえで、摘採されたものを原料として使用する。
*止芽(とめ)とは茶葉が生育し枝の頂点に最終開葉する茶葉。
(2)荒茶碾茶の加工方法
 (1)の方法で栽培された茶葉を、荒茶加工工場において、褐変化を防ぐため高温で蒸し発酵酵素の活動を止めた後、三河式碾茶乾燥炉(レンガ積み五段網・遠赤外線による乾燥方式)で水分を抜いて荒茶碾茶に加工する。
(3)抹茶の加工方法
 (2)の方法により乾燥させた荒茶碾茶を用い、葉の部分だけを仕上げ碾茶として精製し、愛知県岡崎市産の御影石でできた茶臼により、1分間に60回転以下の速度を目安に微粉末状に挽いて抹茶を製造する。
(4)最終製品としての形態
 「西尾の抹茶」の最終製品としての形態は、茶葉(抹茶)である。
農林水産省HPより引用
▼参照記事:旅の思い出2019年5月-京都府茶業研究所①(玉露の本ず栽培)-

結び

地理的表示(GI)保護制度が始まったのが2015年とまだ数年前の話であり、筆者が知らないだけでこういった問題は各地で起こっているのかも知れません。

商標にしてもGIにしても、知的財産として文化を保護することが目的であるはずなのに様々な利権が見え隠れしており、少々残念に思うところがあります。。

★数百年と続いた「伝統製法」をGIによって守ること。
★「伝統製法」を緩和し、利益をあげることで生産者を守ること。

この二つが今後GIに登録する際のカギになるような気がします。

ただ、個人的に思うのですが、「伝統製法」が現代の科学で検証すると「明らかに非効率で、品質も劣る」のであれば、それをGIに登録するのは無理があるかも知れません。

しかしながら、「伝統製法」のものは、個々の好みはあれど美味しく、素晴らしい製品であることが多いはずです。
多くの方が長い間支持して、その土地に根付いて作られてきたものですから。

GIを取得し、利益を得るために「伝統製法」を簡素化する、省力化してしまう、というのは本末転倒のように感じます。

「手間暇がかかって、価格も高くなってしまうけれど、<この製品>でなければいけない」という付加価値をつけるのがGIのあるべき姿のように思うのは筆者の思い違いでしょうか。

筆者に出来ることはとても小さいですが、「日本伝統」の素晴らしいものを知り、学び、購入し、伝えること。

小さくとも、細く長く続けていこうと思います。
そして、GI登録については今後もニュースを追っていこうと思います。
抹茶についての正式な定義を茶業界が早く定めることも急務のように思います…。



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