本物の抹茶(仮)と量が多くて価格の安い抹茶。違いはなに?(加筆修正あり)

抹茶と抹茶の粉 日本茶


茶道の世界で用いる抹茶。
ここ数年でしょうか、外国(特にアメリカ)で非常に注目されています。

先日「世界!ニッポン行きたい人応援団」というテレビ番組で、アメリカ人の女性の回がありました。(2018年6月25日放送)

ワシントン大学で日本語を学ぶ20歳の女性なのですがとにかく抹茶が大好き!
その彼女が京都へって茶摘から碾茶作りなどを体験しています。

和食がユネスコの文化遺産に登録されてから、日本茶にも非常に注目が集まっています。
▼関連記事:ユネスコ無形文化遺産に日本茶を!大切な日本の文化を守ろう。

筆者も時折茶産地に行くのですが、外国人の姿を多く見かけるようになりました。

今回の番組のように、アメリカ人女性をも虜にしてしまう抹茶。
案外日本に住んでいる私たちの方が知らないことが多いものです。

スーパーやコンビニに行けば、抹茶のお菓子が溢れかえっています。

でも実はお菓子に使われている抹茶の多くは「本物の抹茶」(仮)ではない、ということをご存知でしょうか。

抹茶の価格はどれくらい?

抹茶というと、多くの方が真っ先に思いつくのは茶道に使われているものですよね。
まさにあの緑色の粉こそが抹茶です。


中でも価格が安く、手頃なものだと以下でしょうか。


とはいえ、なかなかいいお値段に感じますね。

逆に、こういったものもあります。


一番初めにご紹介している一保堂茶舗の抹茶は40g 4320円。
二番目のものが100g 1080円。
そして、三番目のものは100g 598円。

同じ「抹茶」と記載されていても、こんなにも価格に差があります。

正直、何が違うの???と思いますよね。

どれを購入するのもご自身の自由です。

さて、どれを選びますか?

実際何がどう違うの?

世界!ニッポン行きたい人応援団」で紹介されていた抹茶は、昔から続いている伝統製法のものです。
あの抹茶を仮に「本物の抹茶」とします。

「本物の抹茶」(仮)は、茶木の育て方、肥料のやり方から煎茶とは違い、さらに摘み方、製法、最後には石臼で挽くという工程があり、出来上がりに時間がかかります。

茶の芽は日光を浴びると、旨味成分が渋み成分に変化します。
そのため、旨味成分を閉じ込めるために摘み取る前に覆いをして日光を遮ります。

その覆いに化学繊維を使用するのか、はるか昔から伝統的に使用されていた藁を掛けるのかでも味わいがかなり異なってくるそうです。
▼関連記事:旅の思い出2019年5月-京都府茶業研究所①(玉露の本ず栽培)-

さらに伝統的な抹茶を作る時には芽を人の手で摘むため、人件費と時間かかります。

そして、「碾茶」という抹茶の材料になる茶を作ります。


※碾茶の製法については割愛させていただきます。

さらに、最後の石臼で挽くという工程。

石臼で挽くことにより非常に細かく口当たりの滑らかな抹茶が出来上がるのですが、石臼で1時間に挽くことができる抹茶の量はなんと40gほどしかありません。

石臼で挽くのは効率が悪いため、最近は粉砕機という機械が導入されているところも多くなっています。

しかし粉砕機を使用した場合はやはり石臼ほどの微粉にはなりません。

「本物の抹茶」(仮)はそれゆえ価格も高くなります。
当然のことなのです。

100g598円の抹茶はどういう栽培方法で、どうやって作られたものなのかの詳細はわかりませんが、「本物の抹茶」(仮)とは異なる製法(栽培法)で作られていることは分かりますよね。

被覆の仕方?
茶葉の質?
機械摘みか、手摘みか?

石臼を使用していない?

何かしらが違って、それが価格の差に表れています。

でも「本物の抹茶」(仮)だとお菓子を作るには量が足りないし、高い…

抹茶ロール

決して価格の安い「抹茶」を批判している訳ではありません。

「量が多くて価格の安い抹茶」はお菓子や抹茶ラテなどに大量に使うことができて経済的です。

もし、40g 4,320円の抹茶を使用してメーカーがお菓子を作ったら、破産するでしょう。
減価計算するだけで震えます。by元カフェ店主

抹茶味のお菓子や抹茶ラテなどがこんなに手軽に食べたり飲めたりするのは、「量が多くて価格の安い抹茶」があるからです。
お菓子に「本物の抹茶」(仮)を使用するとすぐに変色しますが、製菓用の「量が多くて価格の安い抹茶」はそういったことが起こらないようにしているものもあるそうです。

今の抹茶ブームを牽引しているのはこちらの抹茶(粉末茶であるものも抹茶とされている場合があります)であると言えます。
茶価が下がり、茶農家の生活も厳しくなる中、昨今のブームにより碾茶を作ることで救われた方たちも多いことでしょう。

ただし、茶道で飲む「抹茶」の味の違いは飲み比べてみれば一目瞭然。

筆者は茶道の体験しかしたことがないのですが、高級な「本物の抹茶」(仮)で抹茶をいただいたときに、本当に感動しました。

濃い色合いにしては口当たりは柔らかく、バランスのよい渋みと苦みと旨味があります。

淹れ手によっても味は違うそうですが、ベテランの先生に点てていただいたので本当に言葉を失うほど美味しかったのを覚えています。

抹茶点てた手

「本物の抹茶」と「量が多くて価格の安い抹茶」のどちらが良いのかは購入する方が決めること。

ただ、盲目的に安いものを求めるのはいかがなものかと思います。
安い、には必ず何かからくりがあります。
とはいえ、価格だけが絶対的な基準にならない場合もあるので難しいところですが…。(;^_^A

日本古来の文化である茶道。
深くは知らなくてもいいけれど、せめて「本物の抹茶」(仮)を一度は味わっていただきたいと思います。

そして、「本物の抹茶」(仮)を知った上で、お菓子には「量が多くて価格の安い抹茶」を使う、濃茶を立てるなら「本物の抹茶」(仮)というように使い分けをしたいと私は思っています。

知っているのと知らないのでは雲泥の差がありますし、せめて理解だけでもしておきたいと最近特に感じます。

先のテレビで放映されたアメリカ女性のように今世界中の方を魅了する力が「本物の抹茶」にはあるのです。
日本に生まれ育ったのにそれを知らないなんてあまりにもったいない!
とはいえ、筆者もまだまだ勉強中です。。

抹茶に興味を持っていただいた方に是非読んでいただきたい本があります。
この本で筆者は非常に抹茶について深く考えるようになりました。


この本の筆者の方のお話を一度だけ聞いたことがあるのですが、

「どうか一度でもいいので、京都に来て、伝統製法で作られた碾茶を石臼で挽いた抹茶を飲んでください」

と語っておられました。(その頃は改訂版が出る前)

抹茶問屋の4代目だから、という理由だけではないと筆者には感じられました。

オリンピックも数年後に控え、多くの外国人の方に日本の良さを知っていただきたい。

そのためには、多くの外国人を迎えるに当たり、日本人が自国の文化を語れるように今のうちから少しでも知っておくべきではないでしょうか。

それが本当の「おもてなし」にも繋がるものだと筆者は考えます。

関係ないのですが、抹茶についてあれこれと調べていましたら石臼もネットで買えることを発見しました。


ほしい…

また、補足となりますが今回「本物の抹茶」(仮)としたのには以下の理由があります。

正直なところ、現在「世界!ニッポン行きたい人応援団」で紹介されていたような昔ながらの抹茶について、日本では正確な定義がないのです。

国際標準化機構(ISO)という国際的な標準を作っている組織があります。

先日(2018年現在)ニュースになっていたのでご存じの方も多いかも知れません。
日本の温泉のマーク(ほかにも数点)が国内規格(JIS)から国際規格(ISO)に移行するという話。
※温泉マークについては日本内からの反発により、JISとISOの併用となっています。(2021/1/28)

世界でも通用する規格を定めているそのISOの中に茶分科委員会もあります。
一番最初は紅茶から定められたため、日本はあまり関心がなく、実際会議に参加するのは2005年になってからのことです。

そこから今現在もまだ世界で通用する「抹茶の定義」を作成中です。

よって、「抹茶」の定義ははっきり言えない現状なのです。

そのため、今回は「本物の抹茶」(仮)とさせていただいております。
ご了承ください。

【さらに追記】2020/10/29
2020年4月1日より「日本茶業中央会」の「緑茶の表示基準」が改訂されています。

抹茶の定義は、以下となっています。

碾茶(覆下栽培した茶葉を碾茶炉等で揉まずに乾燥したもの)を茶臼等で微粉末状に製造したもの 注

*「注」について
抹茶(碾茶)については、緑茶表示適正化推進委員会が名称及び定義を検討するに当たり、以下の
用語の内容を整理し意識統一したものである。
1 名称は抹茶とする。定義は、碾茶を茶臼等で微粉末状に製造したもの。
2 「碾茶」とは、摘採期前に棚施設等を利用して茶園をよしず、コモ、寒冷紗などの被覆資材で
2~3 週間程度覆った「覆下茶園」から摘採した茶葉を蒸熱し、揉まないで碾茶炉等で乾燥させ
て製造したもの。
この用語は、次のものを含むものとする。
① 覆下茶園には、新資材・簡易な被覆方法などの栽培管理技術など。
② 碾茶炉等には、次に示す機能を備えた非煉瓦製碾茶機など。
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「碾茶炉」とは、広がった状態の茶葉(蒸葉)が、コンベア上に散布され、コンベアがトンネ
ル状の乾燥室を通過する間に、内部の輻射・伝熱と熱風で茶葉が加熱乾燥される装置。乾
燥室内には、通常 3~5 段のコンベアが備えられている。
なお、碾茶炉等で揉まないで乾燥された秋碾茶、モガ茶等の原料茶葉は、食品加工用碾
茶と称してもっぱら食品加工用原料に供されるものと理解する。
3 「茶臼」とは、碾茶を微粉末化して抹茶にするために用いる石臼をいう。
なお、茶臼等には、材料粉砕方法は問わないが石臼に準じた機能を備えているものを含む。

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