筆者おススメの本⑤ーグッドバイー

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「大浦慶(おおうらけい)」

お茶に興味ある方なら一度は聞いたことがある名前ではないかと思います。

とはいえ筆者には「幕末にはじめて日本茶を輸出した女商人」というくらいの情報しかなく、特に調べることもなく終わっていました。

また、以前はよく読んでいた小説をあまり読まなくなって久しいのですが、何はともあれ主人公が大浦慶ということであれば読まずにはおれません。

栄華と没落、それでも生き抜いていく強さを持った大浦慶とともに、幕末から明治の激動の時代を一緒に駆け抜けたようなすがすがしい気持ちでいます。

お茶に興味がある方には是非読んでいただきたく、ご紹介させていただきたいと思います。

グッドバイについて



朝井まかて著 朝日新聞出版
2019年1月31日 第一版発行

「朝日新聞」2018年4月6日~2019年3月29日に連載。
単行本化にあたり加筆修正。

著書の朝井まかて氏は1959年生まれ。
2006年より大阪文学学校で学び、2008年小説現代長編新人賞奨励賞を受賞しデビュー。
様々な賞の受賞歴がある女性作家。

朝井さんは小説家になる前、長くライターとして働いた。同じように「現状を抜本的に変える案は却下」という経験もしてきた。「リスクを引き受けたくない人々はダメ出しに終始する。その構図は、昔も今も変わらないと思います」
▼引用:好書好日

 

簡単なあらすじ

油商である大浦屋の次女として生まれたお希以(のちにお慶と改める、以後お慶と記載)は総領娘として育てられる。
自身の母親も総領娘として育てられ、父は入り婿だったがお慶が4歳の時に母は世を去り、父は後妻を迎える。

父に商才がないことを見抜いた祖父はお希以に商いの基本を伝えていく。
祖父はお慶が12歳の時に亡くなり、4年後には大火事が起こって大浦屋も焼け落ちてしまう。

その最中父と後妻と子どもは姿を消し、お希以が大浦屋を16歳で継ぐこととなった。

油の商いも下火となりつつある中、海外から入ってくるものを売るのではなく、自ら輸出することを思いつく。

当時嬉野で作られていた釜炒り茶を通詞の品川を通じてオランダ人の若き船乗りのテキストルに渡すことに成功する。
釜炒り茶がオランダで売れるのかどうか、サンプルとして手渡したのだ。

来る日も来る日もオランダ船が長崎に到着するのを待ちわび、3年が経過。
イギリス人のヲルトとい外国人が大浦屋に訪れる。

テキストルと同様若き商人のヲルトはアメリカで釜炒り茶を売りたいと、1万斤(6トン)もの茶葉を調達するようお慶に依頼をする。

長崎中、長崎を飛び出し農家の元まで足を運び茶葉をかき集め、なんとか取引は成功。
その後は順調に売り上げを伸ばし、お希以は油商ではなく茶商として財を成していく。

長崎にいた亀山社中(のちの海援隊)の若者たち、坂本龍馬や大隈重信、岩崎弥太郎ら現在も名を残す幕末明治の偉人たちの援助も行い、茶の商いはますます発展。

しかし、開国をしたのちの日本は海外貿易の拠点が長崎から横浜へ。

次第に暗雲が立ち込めていく中、お慶は現在の価値で3億という負債を背負うことになる詐欺に巻き込まれていく。

大浦屋の運命は?
お慶は一体どうなっていくのか…



筆者おススメポイント

■茶農家とのつながり

お茶が好きな人間にとって、扱っている商材が「茶」であることが何よりポイントです。

オランダ人のテキストルから釜炒り茶のサンプルを手に入れたイギリス人のヲルト、グラバーたちは当時イギリスで大人気の「紅いお茶(紅茶)」ではなく、お慶が扱う釜炒り茶をアメリカへと輸出します。

ヲルトから大量の釜炒り茶を仕入れたいと言われて、お慶は長崎中を奔走しますが全く足らず、佐賀藩嬉野まで足を運び井出茂作という農家に釜炒り茶の在庫をすべて譲ってほしいと頼み込みます。

外国人が訪れることもない山奥でお茶を作りながら、書物を読み世界情勢を学んでいる茂作。
最初の輸出は大成功。
その後お慶は茶畑を増やしてくれるよう茂作にお願いしに行きます。
茂作とヲルトを引き合わせても良いとも。

「ゆうべは胸が高鳴ってしもうて、よう寝られんかった」
ヲルトに引き合わせてもらいたい一心のみならず、何やら意気に感じてくれたようだった。
「異国ば学ぶことにのみ腐心しとったばってん、己の畑で作った物が海ば越えると思うたら総身に力が漲って、じっとしておられん心地になったけん」
※本文ママ

 

筆者、ここでガッツポーズ。←

■再生工場、輸出茶箱

長崎で有名なグラバー邸には当時日本で初の再製工場があったそうです。

再製工場というのは輸出する茶を外国商館で仕上げ(再製す)るための工場です。

なにせ長い期間船に乗せられて海を渡っていきますので、その間にカビが生えたりすることを避けるためしっかりと乾燥を行い直して輸出を行っていました。
その間に着色をしたり、それによってアメリカから怒られたりと色々なこともあったりするのですが…この辺りはまた改めて記事をまとめたいと思っています。

ヲルトやグラバーの邸内にも再製工場があったそうです。
▼参照:【グラバー家ヒストリー EP7】グラバー商会について①
※「生の茶葉」を外国に送っていた、とありますが、荒茶の段階の少々乾燥が甘い状態ではないかと思います。

その再製工場をお慶は自分の屋敷内に作っていました。

仕事のない女性を雇い入れ、釜での再加工を行い、輸出しやすいように茶箱も作ったという記載があります。

最後の方には横浜から輸出された際に使われていた茶箱絵を参考に浮世絵師に依頼して作らせたというような内容も書かれています。

▼参照記事:輸出をされていた日本茶ー商標である蘭字についてー

▼参照記事:これからの時期の茶の保管に最適!茶箱の魅力!

幕末から明治の茶の輸出についてかなり詳細に書かれており、興味深いです。
日本茶の輸出について気になる方にもじっくり読んでいただきたい箇所が多く出てきます。

■お慶という人物

油商の寄り合いで輸入に頼らず、輸出について言及した際に、ぼこぼこにされるのですがそれでも全くくじけない強さ。

3億円もの詐欺事件に巻き込まれ、大きな負債を背負って自身も製茶場に立ち、茶を揉み続けて借金を返済していく商人魂。

多くの人からいいことも悪いことも持ちかけられることが多いのですが、自身の判断で見極め、幕末明治の偉人たちにも信用された女性。

男性には縁がなかったようですが、義理人情に篤い商人として描かれています。

他にももちろん見どころや涙が出るようなシーンもたくさんありますので、是非読んでいただきたいと思います。

結び

グッドバイのタイトルには何が込められているのだろうと考えていました。

本の中に多くの出会いと別れがあります。

お慶は最後に志半ばで亡くなった多くの人たちを思いながら、自分の手に入れた黒船で「グッドバイ」と言います。

その言葉には何が含まれているのか、筆者にはしっかりと読み取れませんでした。

しかし、黒船を手に入れたことが彼らへの弔いであり、鎖国中の江戸時代に栄華を誇った長崎や古い時代への「さようなら」だったように感じました。(執着へのさようなら?)

他にも今の茶業に照らし合わせて考えさせられる内容もあり、お茶好きな方、茶業関係者にも読んでいただきたいと本気で思っています。

小説ではありますが、感じることは多いのではないかと思います。



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