宇治茶の文化的景観地域フォーラムに参加して思ったこと感じたこと

宇治茶景観 日本茶

先日「宇治茶の文化的景観 地域フォーラムin宇治田原町」にオンラインで参加をしました。

昨年の12月にも「宇治茶の文化的景観 地域フォーラムin宇治市」が行われ、同じくオンラインで参加していました。

京都に住んでいる方や近隣でお茶に興味がある方などは以前から行われていたこうした活動に興味を持っていらっしゃったかもしれません。

今回オンラインセミナーということもあり、京都に足を運ばなくてもパソコン一つでセミナーに参加することができたので、手軽に参加することができてとても良かったです。(まだ参加予定のフォーラムもありますが)

「宇治茶の文化的景観」がどういったものであるのか、セミナーの内容も交えて少しまとめてみたいと思います。

宇治茶について

「宇治茶」と聞くと日本の名だたる茶産地であることはご存じかと思います。

京都は元々「煎茶」「玉露」「抹茶」という三つの茶種を生み出した歴史ある茶産地です。

11世紀に中国(宋)から粉末茶に湯を注いで飲む、点茶(てんちゃ)法が伝わり、抹茶の原型の茶が次第に作られるようになります。

17世紀中期に中国からもみ茶製の葉茶を湯に浸して飲む「淹茶(えんちゃ)法」が伝えられ、18世紀には「宇治製法(青製煎茶製法)」が生み出され、日本固有の「煎茶」が生み出されます。

19世紀には覆下(おおいした)栽培と宇治製法が結び付けられて最高級の「玉露」が誕生しました。

このあたりは是非以前ご紹介した本を読んでみていただけるとわかりやすいです。
▼参照記事:筆者おススメの本④ー茶道教養講座4 日本茶の歴史ー

茶の栽培は最澄や空海(9世紀くらい)から始まり、中国に渡った僧たちが持ち帰った種を撒き、はじめは寺の境内に作られた「境内茶園」から、次第に様々な地域で作られるようになっていきます。

京都府内には宇治川と木津川に挟まれた場所にいくつかの茶産地があり、それぞれの風土や地理をいかした茶作りが今も継続してされています。

■宇治市域
■城陽市域・八幡市域
■京田辺市域
■宇治田原町域
■和束町域
■南山城域
■木津川市域

産地はざっくり7地域に分かれます。

それらをまとめて「文化的景観」として登録することを目標としたプロジェクトの状況や研究結果等を見せていただけるフォーラムが今回の「宇治茶の文化的景観地域フォーラム」です。



「文化的景観」とは?

それでは、「文化的景観」というのは具体的にどういったものなのでしょうか。

公益社団法人日本ユネスコ協会連盟のHPでは

世界遺産は、1972年の第17回UNESCO総会で採択された世界遺産条約(正式には『世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約』:)の中で定義されています。
2018年12月現在、世界遺産は1092件(文化遺産845件、自然遺産209件、複合遺産38件)、条約締約国は193カ国です。

となっています。

「文化遺産」は人為的に作られたもの。

「自然遺産」は自然の力のみで作られたもの。

「文化的景観」とはユネスコ世界遺産の中の「複合遺産」に含まれており、「自然と人が共存」した結果に生まれた景観ということになります。

すでに「文化的景観」としてフォーラムで紹介されていたのは、フィリピンの「フィリピン コルディレラの棚田」でした。


▼引用:世界遺産オンラインガイド

地形を最大限生かした人間の知恵がなければこのように美しい棚田はできなかったでしょう。

確かに自然と人間が生み出した景観です。

ちなみに日本で登録されているのは以下21か所。

公益社団法人日本ユネスコ協会連盟のHPより引用

現段階では文化遺産か自然遺産しかありません。

宇治茶の文化景観が登録されれば、日本初の複合遺産となるかも知れません。
▼参照記事:ユネスコ無形文化遺産に日本茶を!大切な日本の文化を守ろう。
▼参照記事:地理的表示(GI)と地域団体商標。茶に絡む商標にも様々なものがある?!

宇治茶の文化的景観の普遍的な価値(OUV)

普遍的な価値(OUV)とはコトバンクによれば、

《outstanding universal value 「顕著な普遍的価値」などと訳す》世界遺産に登録されるための必要条件。国の違いを超えて、現代・将来人類にとって貴重な文化遺産自然遺産のこと。

ということだそうです。

ユネスコ世界遺産に登録するには以下のような基準を満たす必要があります。

(i) 人類の創造的才能を表す傑作であること。
(ii) 建築や技術、記念碑的芸術、都市計画、景観設計の発展に関連し、ある期間にわたる、又は世界のある文化圏における人類の価値観の重要な交流を示していること。
(iii) 現存する、あるいはすでに消滅した文化的伝統や文明に関する独特な、あるいは少なくとも稀な証拠を示していること。
(iv) 人類の歴史の重要な段階を物語る建築様式、建築的又は技術的な集合体の類型、景観に関する顕著な例であること。
(v) あるひとつの文化(または複数の文化)を代表する伝統的居住形態、土地利用、若しくは海洋利用の顕著な例であること。又は、人類と環境との相互のかかわり合いを代表する顕著な例であること。特に抗しきれない変化によりその存続が危ぶまれているもの。
(vi) 顕著な普遍的価値を有する出来事、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または明白な関連があること(この基準は他の基準とあわせて用いられることが望ましい)。
(vii) 類例を見ない自然美及び美的重要性をもつ優れた自然現象あるいは自然地域を含むこと。
(viii) 生命進化の記録、地形形成において進行している重要な地学的過程、あるいは重要な地質学的、自然地理学的特徴を含む、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な例であること。
(ix) 陸上、淡水域、沿岸および海洋の生態系、動植物群集の進化や発展において進行している重要な生態学的、生物学的過程を代表する顕著な例であること。
(x) 学術上、又は保全上の観点から顕著な普遍的価値を有しながらも絶滅のおそれがある種の生息地など、生物多様性の本来の保全にとって最も重要かつ意味のある自然生息地を含んでいること。
▼参照:第32回世界遺産委員会資料

 

様々な観点から検証し、上記の基準を満たしているものが最終的に世界遺産として選ばれて登録されることになりますので、コンセプト作りというのは非常に重要であるようです。

フォーラムでは具体的にどういった部分がOUV(普遍的価値)に当たるのかということを写真や昔の資料などを元に見せてくださいます。

専門の研究者の方たちが今も日々研究を続けておられます。

結び

まだまだ先のことになるかも知れませんが、もし宇治茶の文化的景観がユネスコ世界遺産に登録されることになったら…。

京都観光の中に茶畑や茶町を見る人が増加するものと考えられます。

京都は海外からのお客様が元々非常に多い観光地ですので、対応していかなければならないことも多数あると思われます。
ex)英語必須、食事などなど

観光地化を進める茶産地では「茶畑に勝手に人が入った」とか「茶葉を持って行ってしまった」というような話も耳にします。

「文化的景観」は自然と人のコラボレーションな訳ですから、茶を作る方たちの生活や営みを邪魔しては本末転倒になってしまいます。
▼参照記事:【2019/11/18、2020/6/12追記あり】中国で「宇治」が商標登録?!今後宇治茶と名乗れなくなる?!

色々な問題を抱えてはいるのかも知れませんが、登録されることは茶関係者としては嬉しく思いますので無事に進められることを願うばかりです。

今後も状況を見守っていきたいと思います。

以前の京都旅記事もよろしければ。
▼参照記事:旅の思い出2019年5月-日本最古と言われる日吉茶園-
▼参照記事:旅の思い出2019年5月-京都府茶業研究所①(玉露の本ず栽培)-
▼参照記事:旅の思い出2019年5月‐京都府茶業研究所②(製茶機械)‐




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